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大阪家庭裁判所 昭和37年(家)2672号 審判

申立人 森田重男(仮名)

相手方 森田昌治(仮名)

被相続人 亡森田治郎(仮名)

主文

一、申立人と相手方とは共同して次の登記手続をせよ。

(イ)  下記宅地の現在の地積を三三二坪七合九勺とする更正登記。

寝屋川市大字木田○○番地 宅地 三二二坪

(ロ)  (イ)の宅地につき、別紙図面のとおり、イ、ロ、ハ、ニ、ホの線をもつて二分し二五四坪二合一勺と、七八坪五合八勺とに二分し前者を○○番地の一、後者を同番地の二とする分筆登記。

(ハ)  下記建物を二分し、主建物及び附属建物(ろ)(は)(に)(ほ)(へ)を家屋番号四三番の一-主建物と附属建物現在どおり-とし、附属建物(い)及び(に)を四三番の二-(い)を主建物、(に)をその附属建物とする-とする分筆登記。

寝屋川市大字木田○○番地所在

(家屋番号四三番)

1、木造わらぶき平家建 居宅 一棟

-床面積 四三坪三勺-

(附属建物)

(い) 木造瓦ぶき平屋建 居宅 一棟

-床面積 一一坪三合三勺-

(ろ) 木造瓦ぶき二階建 倉庫 一棟

-床面積 九坪三合七勺-

-二階 八坪九合五勺-

(は) 木造瓦ぶき平屋建 倉庫 一棟

-床面積 一一坪三合三勺-

(に) 木造瓦ぶき平屋建 物置 一棟

-床面積 九坪八合八勺-

(ほ) 木造瓦ぶき平屋建 物置 一棟

-床面積 一四坪六合五勺-

(へ) 木造瓦ぶき平屋建物置 一棟

-床面積 四坪-

二、被相続人の遺産たる別紙目録表(1)(2)及び(3)の物件を各同目録表の分割欄のとおり、申立人と相手方とに分割する。

三、申立人は、相手方に対し、別紙目録表(1)の一、三、四、六、七の建物、別紙目録表(2)の一、五の宅地、別紙目録表(3)の一〇、一五の農地について、遅滞なくこれが明渡しをせよ。

四、審判費用のうち鑑定人佃順太郎に支給した鑑定費用一五、〇〇〇円は、申立人と相手方との平等負担とする。

理由

第一申立の要旨

申立人は「被相続人森田治郎の遺産について、分割の合意を求める。」との調停を申立て、その原因として(1)のとおり、本件審判における分割についての意見等として(2)のとおり主張した。

(1)  調停申立の原因

申立人は被相続人の長男、相手方はその次男であるが、被相続人は昭和二四年一一月八日に死亡し、申立人と相手方とがその遺産を等分の割合で共同相続したもので、これが遺産は別紙目録表(1)(2)(3)の不動産であるもののところ、双方間で協議ができないから、これが分割の合意を求めるべく本申立に及ぶ。

(2)  分割についての意見等

(イ)  本件遺産たる不動産の時価は、別紙目録表(1)(2)(3)の価格欄のとおりであるが、申立人は、当事者双方が居住している建物及びその敷地について、主文(1)のとおりの更正及び分筆手続を行つた上、主文(2)のとおり本件遺産の分割を施行せられるを相当と思料するものであるが、この場合双方の分割物件の価格合計金の差額は、相手方から申立人に対し償還さるべき筋合であるけれども、申立人は、これが権利を抛棄する。

(ロ)  また別紙目録(5)の動産については、申立人がその共有持分権を抛棄するから、本件の遺産分割の対象から除外せられたい。

(ハ)  別紙目録表(4)の宅地は、本件遺産の一部であるが、さきに本件相続における相続税納付の方法として、当事者双方名義をもつて政府に譲渡し、いわゆる物納をしたものである。

第二相手方の主張

相手方は、本件審判手続上において、申立人が被相続人に対し、その病気療養中多量の睡眠薬を継続的に投用し、被相続人を故意に死亡させたものであつて、相続欠格者である旨主張し、暗に、本件申立の却下を求め、申立人主張の分割案について、格別の主張をしなかつた。

第三調停の結果

上記申立人から申立てられた調停は、当庁昭和三六年(家イ)第一七七二号事件として繋属し、同年九月一八日の

第一回期日以来八回継続して期日を開いたが、相手方はその間一度も出頭せず、昭和三七年五月一五日の期日に不成立に帰し、本件審判手続に移行したものである。

第四判断

一、筆頭者亡森田治郎の戸籍謄本及びその改製原戸籍謄本を綜合すると、被相続人森田治郎は昭和二四年一一月八日死亡したもので、その妻アイは、明治四五年一月四日に死亡しており、被相続人とアイとの間の長男たる申立人と、その間の次男たる相手方が現存しておるが、他に直系卑属がないので、本件の共同相続人は、申立人と相手方とであつて、その相続分は各々二分の一づつであると認めることができる。

二、ところで、相手方は、申立人が相続欠格者である旨主張するけれども果して、申立人が相手方の主張するごとく、被相続人を故意に死亡せしめた事実があるとしても、申立人がそのため処罰せられたことはないので、申立人を相続欠格者と言うことはできない。

三、そうして調査の結果によると、別紙目録(1)ないし(4)の不動産が本件の遺産で、その現況は、およそ次のとおりである。

(イ)  目録表(1)(イ)の建物は、これに申立人が家族たる妻明子及び長女喜代子とともに居住し、相手方もその一部に同居して共用しており、同目録表のその余の建物は、申立人がこれを占有管理している。

(ロ)  目録表(2)の一、二の宅地は、現在公簿上寝屋川市大字木田○○番地三二二坪とされておるが、実面積は三三二坪七合九勺あり、同目録表三、五の宅地とともに、目録表(1)の建物の敷地として使用されておるもので、その(○○番地)地形は、別紙図面のとおりで、分割線イ、ロ、ハ、ニ、ホの線の北西側に、目録表(1)の二及び五の建物が存在しており、目録表(2)のその余の宅地は、いずれも同目録表の使用の区別欄のとおり、第三者に賃貸中のものである。

(ハ)  目録表(3)の一六及び一七を除くその余の農地は、同目録表の使用の区別欄のとおり、自作または第三者に賃貸中のもので、自作地は、申立人が占有管理し、申立人の妻明子が主としてその耕作に当つている。

(ニ)  同目録表の一六及び一七の田地は、従前林太郎及び林庄三両名に賃貸していたもののところ、昭和三六年二月頃に、申立人と相手方の双方名義をもつて、稲川重松と同人所有の寝屋川市大字木田○○○番地の一及び同所同番地の二の田地と交換し、稲川からこの両地を株式会社大金製作所の工場敷地として譲渡することの交渉が行われ、関係書類未整備のまま、この両地は、上記会社にその占有が移転せられ、同会社の工場の一部として占有されているものであるが、相手方は、この交換の合意の効力を否認し、書類に押印を拒んだので、これが譲渡について府知事に対する認可申請も中止されているものであるもののところ、このことと後記(ホ)の物納土地の手続について、相手方が異議をはさんだことが縁由となつて、本件の遺産分割調停が申立てられるようになつたものである。

(ホ)  目録表(4)の宅地は、昭和二四年一一月頃に、申立人と相手方双方名義により、本件相続に関する相続税の納付に代えて、政府に譲渡し、いわゆる物納がなされているもののところ、相手方は、この物納手続書類に署名捺印したことがないとして、その効力を争い、上記のとおり、本件遺産分割の紛議の種となつているものである。

四、目録(5)の動産類については、申立人がその共有持分権を抛棄したものと認めるを相当とするので、本件遺産分割の対象外として、これについてのすべての判断を省略する。

五、さて、さらに調査の結果によると、申立人は三重高等農林学校を卒業し、永らく教員生活をして退職し、現在はカレンダー販売を主業とし、上記のとおり本件遺産たる農地の一部を耕作し、寝屋川教育委員長の公職にあるものであつて、相手方は、大阪府立池田師範学校を卒業して教員となり、引続き教育界にあり、現在は大阪府立盲学校の教頭であるが家族はない、などの事実を認めることができる。

六、そうして、鑑定人佃順太郎の鑑定の結果によると、目録表(1)ないし(3)の物件の時価は、各目録表の価格欄のとおりである。-もつとも、目録表(2)一、二の宅地は公簿上の地積を基として評価がなされているので実面積に坪当り単価一五、〇〇〇円を乗じて算定し、同目録表一三の宅地は、公簿上の地目田として鑑定されておるので同鑑定人がした他の宅地についての評価額賃貸宅地一坪当り四、五〇〇円に、引直して計算したものである。

七、そこで、申立人の主張する分割案を検討すると、建物について、家族の構成及び農業の経営の点から考えて、むしろ申立人と相手方とを反対にする方が望ましいと考えられぬこともないが、多分に申立人としては、相手方に対し立退を請求することはこの上にもあつれきが生じることを惧れて、このような案を立てたものと推察することができるので、その意見を尊重することとし、また、現に耕作の業に携わつていない相手方に対し、自作農地を割当てることはいささか不都合の感がないではないが、自作地はこれを換金する場合には、小作地に比べて数等の利があるので、申立人が受忍する限り、相手方にその一部を分割することは、むしろ公平にかなつたものと言うことができ、また本件紛争の原因となつた目録表(3)の一六、一七の農地は、これを申立人に取得せしめて第三者との間の権利関係を解決せしめるを相当とし、申立人の主張する分割案は、相手方に有利であつて、かつ一応妥当なものと認めることができるから、寝屋川市大字木田○○番地の宅地について、地積の更正登記手続を行い、その地上の目録表(1)の建物とともに所要の分筆登記を行うた上、目録表(1)(2)及び(3)の各分割欄のとおり分割する(価額合計申立人一五、二二二、七七五円、相手方一五、二二六、七一〇円)ものとし、この場合生じる差額金三、九三五円については、申立人がその権利を抛棄しているので、この分だけ相手方の相続分が増加したものとみなして処理すべきである。

八、そうして、目録表(4)の宅地については、その物納手続の効力について、相手方が異議を述べておるけれども、少くとも申立人の持分に関しての物納手続は有効というべく、申立人との間でこれを分割することができないと解せられるので、これら宅地については審判を行わない。

九、以上の次第で、本件遺産について、分割の前提として主文(1)のとおりの登記手続を行うことを命じた上、主文(2)のとおり本件遺産を分割するものとし、分割の結果行わるべき占有移転の義務について主文(3)のとおり、審判手続費用の負担について、家事審判法第七条、非訟事件手続法第二八条に則り、主文(4)のとおり定め、もつて審判する。

(家事審判官 水地巖)

別紙

物件目録表(1)-(建物)

整理

番号

所在地

家屋番号

構造種類

床面積

価格

分割

現在

分筆後

寝屋川市大字木田○○番地

四三

四三の一

木造藁葺平屋建居宅

四三.〇三坪

三八七、二七〇円

相手方

同上

四三の

附属建物

四三の二

木造瓦葺平屋建居宅

一一.三三

一三五、九六〇

申立人

同上

同上

四三の一の附属建物

木造瓦葺二階建倉庫

九.三七

八.

九五

二一九、八四〇

相手当

同上

同上

同上

木造瓦葺平屋建倉庫

一一.三三

一一三、三〇〇

同上

同上

同上

四三の二の附属建物

木造瓦葺平屋物置

九.八八

四九、四〇〇

申立人

同上

同上

四三の一の附属建物

同上

一四.六五

七三、二五〇

相手方

同上

同上

同上

同上

四.〇〇

二〇、〇〇〇

同上

備考 (イ) 所在地は、一、三、四、六、七は分筆後は寝屋川市木田○○番地の一。二、五は同所同番地の二となる。

(ロ) 三の床面積上段は一階、下段は二階を示す。(編注 上段は右側、下段は左側) 以上

物件目録表(2)-(宅地)

整理

番号

所在地

地目

地積

使用の区別

価格

分割

寝屋川市大字木田○○番地の一

宅地

二五四 .二一坪

自己使用

三、八一三、一五〇円

相手方

同所同番地の二

同上

七八.五八

同上

一、一七八、七〇〇

申立人

同所○○番地の一

同上

二一.七七

同上

三二六、五五〇

同上

同所○○番地の一

同上

四.〇〇

賃貸

一八、〇〇〇

相手方

同所同番地の二

同上

七九坪のうち 七六.〇〇

自己使用

一、一四〇、〇〇〇

同上

同所同番地の二

宅地

七九坪のうち 三.〇〇

賃貸

一三、五〇〇

相手方

同所○○番地の三

同上

六.四〇

同上

二八、八〇〇

申立人

同所同番地の四

同上

二四.九〇

同上

一一二、〇五〇

同上

同所同番地の六

同上

二三.八一

同上

一〇七、一四五

同上

一〇

同所○○番地の一

同上

七四.〇〇

同上

三三三、〇〇〇

同上

一一

同所○○番地の二

同上

六.四六

賃貸

二九、〇七〇

申立人

一二

同所○○番地の一

同上

八一.〇〇

同上

三六四、五〇〇

同上

一三

同所○○番地の一

一二五.〇〇

同上

五六二、五〇〇

同上

一四

同所字一番浦○○番地の一

宅地

二七.〇〇

同上

一二一、五〇〇

同上

一五

同所字北脇○○番地

同上

一〇一.〇〇

同上

四五四、五〇〇

相手方

一六

同所同字○○番地

同上

一五八.〇〇

同上

七一一、〇〇〇

同上

一七

同所○○番地の二

同上

二一.〇〇

同上

九四、五〇〇

同上

備考 (イ) 一と二とは、現在○○番地一筆三二二坪の土地である。

(ロ) 五と六とは、一筆七九坪の土地である。 以上

物件目録表(3)-(農地)

整理

番号

所在地

地目

地積

使用の区別

価格

分割

寝屋川市大字木田○○番地の二

二畝

〇五歩

自作

六五〇、〇〇〇円

申立人

同所○○番地の二

〇三

(七)

二九

賃貸

一、二五七、〇〇〇

相手方

同所同番地の五

同上

(四)

〇〇

同上

三六〇、〇〇〇

同上

同所○○番地の二

同上

一八、〇〇〇

申立人

同所○○番地の一

同上

一六

同上

四八、〇〇〇

同上

同所○○番地の三

一六

同上

四八、〇〇〇

同上

同所○○番地の一

同上

〇〇

自作

一、〇八〇、〇〇〇

同上

同所同番地の三

同上

同上

六〇、〇〇〇

相手方

同所○○○番地の二

同上

(一)

二二

同上

一、三四四、〇〇〇

申立人

一〇

同所同番地の六

二六

自作

六七二、〇〇〇

相手方

一一

同所字北脇○○番地の一

同上

二一

賃貸

一八三、六〇〇

申立人

一二

同字柿木○○○番地

同上

(三)

〇六

同上

一、六五二、四〇〇

相手方

一三

同所字郷作○○○番地

同上

二六

自作

五、八五六、〇〇〇

申立人

一四

同所字西ハサ間○○○番地

同上

(一)

〇七

賃貸

一、〇一七、〇〇〇

相手方

一五

同所字井路向○○○番地

同上

(四)

一一

自作

三、一五〇、〇〇〇

同上

一六

同所祐瀬○○○番地

同上

(五)

〇二

一、八二一、〇〇〇

申立人

一七

同所同字○○番地

同上

(五)

〇〇

八二五、〇〇〇

同上

備考 地積( )内の数字は畦畔で○は内数、△は外数を示す。

物件目録表(4)-(物納土地)

整理

番号

所在地

地目

地積

価格

備考

寝屋川市大字木田字北脇○○番地

宅地

五六 坪

二五二、〇〇〇円

吉村孝男に賃貸していたもの

同所同字○○番地

同上

一〇一

四五四、五〇〇

三井公一に賃貸していたもの

同所同字○○番地

同上

八〇

三六〇、〇〇〇

森田三郎に賃貸していたもの

同所同字○○番地の一

同上

五六

二五二、〇〇〇

広川和吉に賃貸していたもの

同所同字○○番地

同上

一〇八

四八六、〇〇〇

原俊悟に賃貸していたもの

同所同字○○番地

同上

一〇二

四五九、〇〇〇

森田トミエ山田市郎に賃貸していたもの

同所字一番浦○○番地の二

同上

六九

三一〇、〇〇〇

山田三郎に賃貸していたもの

同所同番地の三

同上

三八・六七

一七四、〇一五

同上

目録(5)-動産類

一、軸物 四三本

二、額類 四枚

三、花器類 四点(うすばた一、外花台)

四、什器類

(イ) せんとく大鉢 一対       (ロ)せともの大鉢 二箇

(ハ) 陣太鼓 一個          (ニ)太鼓 二箇

(ホ) 四つ折屏風 二点        (ヘ)重箱 八箇

(ト) 長持 五個(大二、中一、小二) (チ)重ね戸棚 二棹

(リ) たんす 二棹          (ヌ)仏壇 一基

(ル) 祭殿 一基           (ヲ)水 屋 一棹

別紙 図面〈省略〉

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